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胃ガーン!3

玄関を開けると空気が変わり、彼はいる。
「いらっしゃい」と彼は言い、僕は「こんばんわ」と言う。
いたって普通の夜にその声は暗闇に馴染み消えていく。

「どう、体の調子は?」
彼は僕の酒を作りながら言う。
「まだ結果が出てないんだよ」
「そうか、じゃぁまだ飲めるな」
彼はコースターと酒を僕の前に無造作に置く。
彼の首にシコリが出来たのはつい最近のことだ。
寝汗もひどく痛みもあるらしい。
病院に行くようにすすめるがあまり乗り気ではない。
僕らは同じ悩みを抱え黙り込む。
そして何も変わらない機能と同じ時の刻みと酒は同じスピードで薄くなっていく。
適当にかけた月は楕円の軌道で角度を変えて僕らの視界に入るが、オフホワイトのそれは子供の頃描いたあの輝かしい黄色とは違う。
だからと言って今絵の具を渡されても僕はきっと黄色に塗りたぐるんだろう。
そんな夜だ。
突然新しい空気が体を横切る。
振り返ると時代遅れのつばの広い帽子を被った男がギターを抱えている。
「今晩はナルミクンと言います。僕の唄を聴いてください」と唐突に彼は言い、勝手に唄を歌いだした。
それはパーソナルな感情がほとばしるだけの物まねみたいな唄だった。

どれほど道を歩いたらあなたに会えるのか?
どれほど海を飛び越したらあなたに会えるのか?
どれほど弾丸の雨が降ったらあなたはつらいのか?
その答えはきっと風にあるのさ
どれほど見上げたらあなたが見えるのか?
どれほどの耳をつけたらあなたに届くのか?
どれほどの苦しみがあなたにあるのか?
その答えはきっと風にあるのさ
どれほどあなたはそこに佇むのか?
どれほど僕らは近づけるのか?
どれほど僕はあなたを見ない振りをし続けられるのか?
その答えはきっと風にあるのさ

彼は歌い終わった後に僕らに向かってこう言った。
「君らの答えも風に舞っているよ」
僕らは「そうなんですか」と、二人で顔を見合わせ相槌を打つ。
「今の曲ってボブディランの曲?」
彼は顔を真っ赤にして
「誰だよ、ボブデランって、これは僕の曲だ、昨日作ったんだよ君らのためにさ。言葉間違えんなよな」
「すいません」僕は謝った。
立て続けに彼は言う。
「僕の言葉を信じてさ、やってみなよ。きっと大丈夫だよ。きっと君らは選ばれてはいないかもしれないけど、今からでも遅くはないから。見えるよ、俺には見える、君らの全てが」
と言って僕らに前世が知りたいかと尋ねる。
僕らは「えぇと、、、知りたい、、、かな、まぁ知ってるなら教えてもらおうかな」と二人で顔を見合わせ言った。
ナルミクンは得意満面になって僕に向かい
「君はロシアの農夫だね、1800年代の。愛する人ととても悲しい別れがあり死んでいったんだ」
僕は「へぇええ、そうなんですか、じゃぁ彼は?」
「彼は古代トルコ軍付きの学者で一生伴侶に恵まれなかった。でもそれは自分の意思によるものもあったのでそんなにつらくはなかったはずだよ。それより酒飲みでそっちの方が良かったらしい」
「それはいつくらいの話なんですか?」
彼は悲しそうに「それわからない」と言った。
それはわからない、、、僕はそっちの方が良い言葉だと思ったが面倒くさいので言わなかった。
「世の中には選ばれた人間とそうでない人間がいて君たちには悪いが僕は選ばれた人間なんだ。でもそう悲観しないでくれ。それが君らの役割なのだから。僕は使命を果たした後にキンクルーナ星という星に帰るんだ。今から楽しみだよ。地球にもキンクルーナ星から来ている星人はたくさんいてね、そうだ!見分け方を教えてあげようか」
「出来たらでいいけど、、、じゃ教えてもらおうかな」僕が言った。
「そうこなくっちゃ、あのさぁTシャツの首の後ろからタグを出している人がいるでしょう?あれキンクルーナ星の星人」
ナルミクンはクスッ笑って誰にも言っちゃダメだよ、と言った。
さらに続けて彼は
「僕の仕事は君たちを幸せにすることにあるんだ。わかるだろう、かわいそうな君たちを僕は幸せにするんだ。それが僕のこの地球で与えられた仕事のひとつなんだよ。まぁ助けたってどうせ君らは間引かれちゃうんだけどね。そんな人を僕は助けたいんだ。そしたら来たよ、久々の指令がね。これが又今日は分かりにくいったらありゃしないんだけどさ、どうにかね受信したよ。それはねさっき道で歌っていたらオバサンに菓子パンもらったから食べていたら、アンパンなんだけど小豆がね、フフ、小豆の皮がね上唇の裏にひっついてさぁ、これで今日はいけるって思ったよ。だってそれはさ、どうしても取れないんだよ、どう指をねこう口に入れて探っても取れないんだよ。感覚はすぐそこにあるのに。あのオバサンからのサインかってその時初めてわかったよね。けっこうイキなことするよね。普段はもう少し簡単なサインなんだぜ。街でうずくまった薄い影の人に見つめられて入ってきた言葉を僕が読み取ったり、大体僕は感性が地球人より強く受けられるようにできているからさ、当然なんだけど。それでさ、オバサンの話しに戻るけどさ、小豆が取れないまま帰ろうとしてたらこの店の前でやっと取れたんだよね、これがサインだよ。今日うらぶれた君たちを僕が幸せにする。なぜならそれが僕の仕事だからだよ。感謝するならオバサンにしてね。僕のことはいいから。僕は当然の仕事をやっているだけだから。」
僕らはあまりの早い口調と意味のわからない内容をとりあえず聞いていたが、
そこまで一気に話すとナルミクンは
「ねぇもしよかったらビールを一杯もらえないかな、すごく喉が渇いちゃったよ」
そう言うなり勝手に厨房に入り込み生ビールをとても旨そうに注ぎ「じゃ乾杯」と言ってゴクゴクと一気に飲み干した。
そしてまた話が始まる。
「ねぇ君たちは幸せって何か知ってるかな。君たちの思う幸せなんかたかが知れてんだよ。どうせ女の事や金の事だろう?そうでなければ気持ちよく楽に人生を全うしたいとか、だいたいがなまけものなんだよ、仕方ないよね。君たちの設計がそうなってるんだよ。アトミズムによって設計された君たちの限界なんだよ。ブロックを積み上げて構造物を作るレゴ遊びみたいにさ、ボトムアップ的に成長してきたわけだよね。でもそれには限界があるんだよ。単純なんだよ、構造が。だから僕はこうして君らと同じようなかっこうができるんだぜ。僕らの星はエネルギーのみによって構成されている。その構造は複雑で僕には今説明できないけどさ、キンクルーナ様の夢の一部なんだ。僕らはキンクルーナ様に生かされているんだよ。全てはキンクルーナ様の夢の波動なんだよ。でも間違っちゃいけないよ、波動が来たって君らの小さい欠点だらけの脳みそじゃ受信できないからさ。バカにはわからないんだよ。だから間引かれちゃうんだよね。たまにはいるよ、地球人でも波動を受け止められる人がさ。でもそれはほんの一部の優秀な人でしかない。もちろんキンクルーナ星にその人たちは帰る事が出来るんだ。だけど君らのアホ面を見ているとだめだな。僕の感性がそう言って泣いてるよ。しょうがない、でも頑張れ!」
そこまでナルミクンは一気に言い放ち、またビールサーバーにグラスを当て勝手にビールを注いだ。
それをまたいっきに飲み干し 僕たちに向かいパンパンと手を叩き「さっ始めようか!」と言った。
厨房に向かい「君は何君かな?」
「上田だけど」
「上田君!じゃ出てきて。おっ、君はたくましいね」
「君は?」
カウンターに座っている僕に言う。
「佐藤です」
「おぉ佐藤くんか!栄作は僕の弟子だよ、奇遇だね、こりゃ頑張らなくっちゃね」
ナルミクンは僕らを向かい合わせに足を肩幅くらいに開かせ自分はその横に立った。
サッカーのプレイボールみたいな形だ。
審判と選手。ボールはもちろんない。
「それでは始めマース!サトーチャンと上田選手が幸せになりマース!お願いしマース!」
僕らもお互いにかるく首を動かしお願いしますの動きをする。
ナルミクンはいきなりカウンターにあったロンリコのキャップを開けグラスにジョボジョボ注ぎだした。
それをまたも一気に飲み干した後さらに注ぎなおし、もう一杯口に含んだかと思うとそのロンリコを口からグラスに戻した。
ナルミクンの唾液まみれのロンリコだ。
「はいこれ持ってね上田選手!」と言って渡した。
「そしたらですよぉ、まずサトーチャンは上田選手の肩に左手を置き首のしこりを右手でつまんで下さーい」 僕は言われた通りおそるおそる首のしこりをつまむ。
パンの生地みたいな感触だ。
かるくかいた汗に少しヌルッとしている。
「サトーチャンはそのまま顔を上に向けて口を大きく開けてそのままストップ!」
言われるままに僕は右手でしこりをつまみながら顔を上に向けて口を大きく開けてそのままの体勢を保つ。
「それでは上田選手もサトーチャンの肩に左手を置いてください。僕の合図でサトーチャンの口の中にその神聖な液体を一気に流し込んでね。サトーチャンは上田選手のしこりを思いっきりつまんでください。僕の合図は二人に通じると共にキンクルーナ星の地球担当者に伝わり施しのビームが向けられることになりまーす。そうすることにより二人の波動は宇宙へ向かうと同時にそれをキャッチした施しのビームがそれを浄化して二人の体に戻すことになるから。わかるかな?たぶん君らにはわからないと思うけどしょうがないよな、それは。そんなに悲観しないでね。わからないことって多いんだよ、オレにはわかるけど」
ナルミクンは僕らの頭の上に自分の両手を置いた。
それから目を瞑りフッと息を吐いた後に「ア、ハイ!今!」と叫んだ。
僕は口に注がれたロンリコにむせながら首のしこりを思いっきり握りつぶした。
二人は片手で肩をつかみ合いながら足をバタバタさせて悶え苦しんだ。
胃に入ってくるロンリコが熱い。
きっと彼の首のしこりの痛さも尋常ではないだろう。
苦痛の顔が目の前に迫っている。
「ア、ハイ!そこまで!」
僕らは口からこぼれたロンリコと全ての穴から噴出した体液でグショグショになった床にへたり込んだ。
しゃがみこんだ体をようやく額と額をつき合わせて保っている状態だ。
「頑張ったね。みんな!じゃオレもう行くから!バイビー!」 そう言ってナルミクンは帰って行った。
穏やかだった夜に残された僕らの息遣いはそれからしばらく続いた。

後日二人に葉書が届いた。
それは二人の検査結果で、僕は胃炎で彼は筋肉痛という検査報告だった。
それからしばらくがたち僕はナルミクンが死にそうな顔で夜のアーケード街で唄っているのを見た。
お礼を言いに近づいたが声をかけても僕のことがわからないみたいだった。
彼は僕を無視してさっきと同じ歌を歌いだす。
あの晩に唄った曲だ。
今度は僕がナルミクンを助けてあげる番だ。

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